研究課題
化学メーカー15社の2000.3期から2009.3期までの、有価証券報告書のデータを用い、各社各年度のキャッシュフローを効率性と財務制約度の軸で6分類に分け、150個体のパネルデータ標本に加工した。この標本の範囲で、「効率的内部資本市場は企業価値向上に貢献しているか」という問いに答えるべく、標本間比較分析と回帰分析を行った。得られた結果は以下の通りである。分析対象15社10年間を通じ、効率的資金補填の例は少なく、資金吸上は多い。また、2008/9年に、サブプライム/リーマンショックを反映して、資金吸上→資金補填の資金融通変化が散見される。「総合化学グループ」と「機能品グループ」に大別して分析したところ、とくに後者で機能品セグメントからの資金吸上が顕著である。次に、資金補填→企業価値増加の回帰分析結果は、非効率的資金補填が消極的に企業価値を減少させる点で整合性がとれており、特に財務困窮セグメントへの補填のインパクトが大きい。一方、資金吸上→企業価値増加の回帰分析結果は、非効率的吸上が企業価値増加にプラスに貢献しているという整合的ではない結果を示している。ただし、これは、有利子負債返済を通じた間接的効果と考えられる。総じて、BCGマトリックスがいう「金のなる木」から「問題児」への資金融通パターンは、観察データではほとんどみられず、資金吸上事例が顕著であったが、非効率資金補填は企業価値減少に消極的に貢献する点で、肯定的仮説は部分的に検証できた。この点がいちばんの研究成果と考える。当年度の研究にはいくつかの限界がある。化学産業でコントロールしたとはいえデータ数150は、先行研究のデータ数に比して少ないこと、リーマンショックなどの外的変化が内部資本市場に与える影響や有利子負債返済の企業行動と資金融通の関連性が考察未済であることなどが上げられる。これら諸点は、来年度以降の課題として取り組む。
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原価計算研究
巻: Vol.30,no.1 ページ: 70-84