研究概要 |
本件研究は,日本の上場化学メーカーを対象に「事業部間の資金融通を効率的に行い,有利子負債返済を積極的に行った企業は,リーマンショックにともなう外部資金調達上の困難を比較的柔軟に乗り切った」という仮説を検証すること研究目的とする。研究の初年度である平成22年度では,化学メーカー15社10年の有価証券報告書データを対象に,非効率な事業部への資金補填が企業価値減少につながることを検証した。ただし,データ社数が限定されていたこと,有利子負債返済と預金増加がどうかかわるかについて課題を残していた。 そこで,平成23年度は,化学メーカー114社11年にデータを拡張し,それら課題に取り組んだ。まず,リーマンショックは預金積増行動を促進させ,有利子負債返済を修正させたこと,内部資本市場規模の大きい企業はデットキャパシティーの余裕があり,平常時有利子負債返済を抑制させ外部資金調達を促進させることなどの知見が得られた。これらから有利子負債返済は経営者の意思が反映されやすいのに対し,預金積増は事後的に決まる性質にあるといえる。 次に,分析対象データでは,有利子負債返済が外部資金調達より多くみられること,セグメント間資金融通のうち,資金吸上が資金補填より多くみられること,リーマンショック期では異なったパターンがみられることなどの観察事項がみられた。これに対し,回帰分析手法で因果関係を調べた。結果は,デットキャパシティー仮説,内部資本市場の資金量的確保効果,流動性確保仮説が検証できた。ただし,事業部間資金配分のいわゆる「目利き」効果は不十分であったので,部分的に有価証券報告書記述の中期経営計画事項の事業再編事項で補った。
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