本研究は,日本の上場化学メーカーを対象に,「事業部間の資金融通を効率的に行い,有利子負債返済を積極的に行った企業は,リーマンショックにともなう外部資金調達上の困難を比較的柔軟に乗り切った」との仮説を検証することを目的とする。研究初年度の22年度では,化学メーカー15社の有価証券報告書を調べ,非効率な事業部の資金補填が企業価値現象につながることを検証した。23年度は化学メーカー114社に広げ,リーマンショックは預金積増行動を促進させる一方,有利子負債返済を抑制,外部負債調達を促進させたことを明らかにした。これらから,有利子負債返済は経営者の意思が反映されやすいのに対し,外的ショックにさらされた場合,預金積増行動は事後的に決まる性質をもつことを示唆している。 最終年度の24年度は,化学メーカー114社から7業種553社にデータ対象を拡張し,外的ショックであるリーマンショック以前と以後を比較し構造変化が企業行動や企業成果にいかなる影響を与えたかを研究した。これまでの研究成果を踏まえつつ,内部資本市場の量と質の計量化,構造変化前後の影響度のモデル化,成果指標の吟味等に注力し,「内部資本市場の規模と質はリーマンショック時期の企業行動と成果に有意な貢献をし,なかでもIT バブル直後の事業再編期の内部資本市場の規模と質の方がその後の景気回復期より貢献した」と仮説をリファンした。用いた手法としては,標本選択バイアスを減少させる時系列の視点からブートストラッピングであり,多角化企業(処置群)と専業企業(対照群)との間に行動と成果に有意な差異があることを観察できた。そして,内部資本市場がリーマンショック後の企業行動と成果に与えた影響を差分の差回帰分析を用いて分析した。分析結果により提示した仮説が検証できる内容であった。
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