本研究の目的は、若年労働者市場に過度に依存して成立している保育園(所)の事業システムを分析対象とし、今後も持続可能な事業システムとして存在していくためには、どのような点においてシステムの変更や組み直しをしていくべきか、その再構築可能性について、経営学的あるいは会計学的視点から考察することである。 本年度は、引き続き関西圏の事業所内保育所の聞き取り調査を行うとともに、新たなサービス事業として保育事業に参入を決めたアパレル・メーカーについて調査を行った。事業として採算を見込むのであれば、利用価格を公的資金によって極めて低く抑えられている一般の保育価格に対して、高額に設定せざるを得ず、理念として実現したい保育と実際に事業として実現可能な保育との間に大きな隔たりがあり、企業が保育を事業として成立させる困難性が伺われた。 引き続きスウェーデン・ベクショー市でモンテッソーリメソッドを用いる民営保育所、国内首都圏の特定高額所得者を対象に事業を展開する株式会社立の保育所等を訪問し、聞き取り調査を実施し、保育所の運営体制、雇用状況などについて情報の収集、分析を行った。 いずれの調査からも明らかとなったのは、保育所の事業システムにおいて健全な雇用システムを実現し、財務的にも安定させるためには、他の教育事業と同様に受益者からの利用料金だけで事業を成立させることは難しく、多様かつ複合的な収益システムの構築が必要であることである。また事業の展開にあたっては単体の事業者がすべてのリソース(土地、建物、遊具、専門教員)を抱え込む単体完結型の事業ではなく、地域、他業者との連携やリソースの共有によるコスト削減が見込まれる複数連携型の事業を目指すことが1つの方策としてあることが明らかとなった。
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