現在、会計学の分野で企業評価を行うためには、企業価値の測定が重視されている。企業価値は、将来キャッシュフロ-を資本コストで資本還元した現在価値で算出される。しかし、将来キャッシュフロ-と資本コストは予測の数値であるために、企業価値そのものも予測の範囲にすぎない。しかも、企業価値で測定した場合、業界や企業の特性も考慮されていないために、実態から乖離する傾向がみられる。 そこで、本研究では、伝統的な手法で企業評価を行うことにした。その指標は、売上高営業利益率である。この指標は、企業が売れる商品をいかにして生み出して利益を上げているのかを示す指標である。今回の研究では、2005年に合併して誕生したアステラス製薬と経営統合した第一三共に注目した。両社とも合併ないし統合後、売上高は約2倍上昇した。売上原価が売上高に占める売上原価率は、両社とも30%前後で推移している。売上高販管費率についてみると、、アステラス製薬では45%前後で推移しているのに対して、第一三共では、55%前後で推移している。このため、アステラス製薬の売上高営業利益率は25%前後で推移しているが、第一三共では、15%前後で推移していて、両社には約10%の差が生じている。また、第一三共は、2008年度にインドのジェネリック医薬品企業であるランバクシ-・ラボラトリ-ズを買収したために、2009年度には売上高販管費率が64%に上昇し、その結果、売上高営業利益率は10.5%にまで低下している。 このように大型合併や統合により、両社には収益性においてかなりの開きがみられており、第一三共では、経営統合や合併にともない、統治費用(ガバナンスコスト)が発生していると推察される。統治費用はどのような原因によって発生したのか、両社の経営組織を考察することが残された課題である。
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