平成22年度は、(1)本研究における分析対象となる企業グループに対するヒアリング調査と分析に向けてのヒアリング内容と提供を受けた資料の整理を踏まえたケース作成、(2)海外におけるCAE (Computer Aided Engineering)の製品開発への適用事例の調査、および(3)システムモデル構築に向けての予備検討を実施した。ヒアリングを実施するに当たり、筆者の想定している理想的なCAE活用枠組みをベースとして各社の状況を整理した。現時点までの調査で得られた事実から帰納されたモデルの概要は次のように要約される。 ALD (Analysis Led Design等の導入に成功している企業は、必ずしも従来的な検証CAEの導入を前段階で行っていないことにある。つまり、一般的な検証CAEを導入して広義のCAEの枠組みにたどり着くには、かりにそれがより望ましい活用法だとしても、何らかの障壁が存在している。そうした意味で、ALD成功企業と従来型から前段階へとCAEの利用範囲を拡張している企業のCAE導入・活用プロセスを比較することに大きな意味がある成果だと考えられる。 また、広義のCAEの効果は、システムモデル構築能力に依存しているとの仮説を検証するために、筆者自身が概念的なシステムモデルを構築し、どのような形で設計や製造の暗黙知が織り込まれていくかを、ヒアリングの成果を踏まえて筆者自身がCAEソフトとシステムモデルを連携させるためのプログラムを開発した。そして、開発したプログラムを用いて新しいガスケットの最適化を行い、その成果を国際会議で発表した。このことにより、企業の製品開発力の核となるシステムモデル構築能力とCAE効果の関係を測定できるようになり、CAEの活用が、製品開発プロセスと製品開発組織にどのような影響を及ぼすかを明らかにするベースが構築できた。
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