最終年度であるので、これまでの調査データーの整理、学会等での発表と論文としての刊行に力点をおいた。グローバル化をめぐるわが国産業の問題は、それぞれがGDPの20%程度を占めるエレクトロニクス産業と自動車産業に特徴的にあらわれている。 とりわけエレクトロニクス産業では薄型テレビを製造販売しているシャープやパナソニック等が巨額の赤字を計上して苦境に陥っている。円高差損の問題以上に深刻なのは、優れたデジタル技術を確立しているにも関わらず、韓国や台湾の企業にキャッチアップされて、中国やアジアの近隣諸国に広がる巨大なヴォリュームゾーンから締め出されていることである。研究を通じて、①国内ライバル企業による激しい同質的競争がもたらす戦略の硬直という罠、②デジタル化が生み出すモジュール生産の罠、さらには③結果として生じるコモディティ化にがもたらす価格競争の罠の克服がこのような現象の原因であることを明らかにし、そのためには戦略ビジョンを転換する水平方向のイノベーションの展開が必要になっていることを見出した。この点は論文として刊行できた。 他方の自動車産業では、中欧での調査を含めて、ハイブリッド車や電機自動車等の次世代自動車技術で世界をリードしていること、自動車にはエレクトロニクス産業のようなモジュール化やコモディティ化が顕著には表れにくく、しかもデザイン等の差別化要因が効いているため、円高が是正されれば急速に業績が回復する素地があることを明らかにできた。さらに自動車産業の集積が進む北部九州の課題と対策を東北におけるトヨタの展開と比較して把握することを試みた。研究成果の学会発表を基にした論文化に取り組んでいる。
|