本研究は「取引費用アプローチ」を軸に経済学と経営学の融合的研究を実証的に試みる。この研究テーマは,伝統的に経済学と経営学それぞれの領域で独立的に行われてきたが、企業を対象にしつつもその内部には立ち入らない経済学と企業内部に立ち入って研究を行う経営学の間には様々なギャップがあり、両者の融合的研究は急務であるにもかかわらず,実際にはほとんど行われてこなかった。けれども,近年の経済学の新しい展開,特に「組織の経済学」や「企業の経済学」の登場によって,企業組織,企業グループ内取引,アウトソーシングなどの経済学的分析が進んだことで、経営学と経済学の成果の融合が可能になりつつある。 以上を踏まえて、本年度は次のことを行った。経営学的観点からは、ベトナム日経企業勤務の現地採用外国人(ベトナム人)を対象に、代表的な取引費用の一つと考えられる組織内マネジメントの阻害要因についてアンケート調査の分析を行うとともに、外国人非正規従業員のリテンションの実態と課題について検討した。ベトナム企業の調査結果からは次の点を明らかにした。(1)職場の対人関係、組織の意思決定のあり方、上司のマネジメントスタイルが、部下である外国人従業員の自己効力感、彼等が認識する組織の目標達成度、キャリアに影響している。(2)外国人非正規従業員のリテンションにあたっては、賃金などの企業が行うインセンティブの設定とともに、現地人が持っているネットワークを活用することが重要である。 経済学的観点からは、組織内取引が国際貿易および国際分業に及ぼす影響を、理論的観点から分析した。特に輸出と規格化が及ぼす効果について主要経済理論をふまえてモデル化を試みた。これらの成果は順次発表の予定である。
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