本研究の目的は、人事管理の多元化と従業員のキャリア志向の多様化が一進展する中で、両者のニーズのマッティングを支える環境条件の在り方を考察するための理論的な枠組みを開発すると同時にそれを実証的に検証することにある。従来まで主流であった内部労働市場型のキャリア(つまり特定の会社で長期にわたってフルタイムで就労するタイプのキャリア)は、今でも従業員の生活と雇用を保障し人材育成に寄与するキャリアとして重要ではあるが、今後予想される様々な環境変化の下では、それに加えて職業別労働市場をベースにしたキャリア(つまり職業能力が特定企業の外側で定義・評価され、勤務先は変わっても労働条件や仕事を変えずに、場合によってはより向上させていけるようなタイプのキャリア)の普及によって補完される必要がある。本研究はそのための環境条件の整備の在り方を考える上で貴重な含意を有するものである。 平成22年度は、研究目的の達成にむけて欠くことのできない作業である「人事管理とキャリア形成との関係」を統一的に考察するための枠組み構築にむけて、重要な研究鉱脈である戦略的人的資源管理論及びキャリア研究に注目しつつ主要な研究のレビューを行った。 同時に国内外の文献を広く収集し、また体系的にレビューを行うことで、実証的な調査研究の仮説設定に寄与しうる主要変数の析出とその関係について精査し、より洗練された理論的な枠組みと仮説の構成をはかった。 さらに以上から得られた理論的枠組み及び仮説の経験的妥当性の検証のために、首都圏を中心に関西圏も視野に入れつつ、企業レベルでの人事管理の動向及びキャリア管理・支援、人材育成の取り組みについてヒアリング調査を行い、その成果の一部を学会で報告し、また一部を著作に収録した。
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