本年度は研究実施計画に従い研究を実施した。本年度の目的はこれまで効果的に測定されてこなかった産業集積のメカニズムと経済的成果の関係を明らかにするための方法論およびフレームワークの構築である。本研究ではこれまでインタビュー対象者のサンプリングバイアスに大きく影響されてしまう研究方法からの脱却をめざし、あたらしい手法の開発に取り組んだ。その方法は大きく二つの方法に分かれている。 第一に、蓄積された業界雑誌および業界団体機関誌の内容をテキストマイニングにより定量化し、そのデータの中にパターンとして表れてくる各年代毎の特徴と、実際の産地の出荷額や業界内のイベント(例えば工場の海外進出や業界団体による輸出の推進などの統一的指針)をすりあわせることにより、正確な産業集積によるコンテキストを把握することである。第二に正確に把握された産業集積のコンテキストと、これまでのインタビューデータを総合的に分析し、必要な場合はさらに追加の調査を行って、産業集積内の企業の行動メカニズムを分析することである。 本年度は中心的な業界誌一誌40年分と、2010年までの業界団体機関誌一誌を借用してすべてスキャニングし、その記事の中から比較しやすく、かつそのときの業界の状況がよく表れている記事を系統的に選択してOCR処理をおこない、データベース化した。 また、テキストマイニング分析を実施し、これまでの研究プロセスにおいて独自に作成した1960年代からの産業集積のデータと比較しながら分析を試みた。その結果、単純な出荷額の推移と、集積および業界の環境認知は一致しておらず、集積内の主体は、景況以外の要因に影響を受けながら意思決定を行ってきていることが明らかになった。また、その時期によって、意識されているビジネス上の主題が、一定のパターンをもって変動している可能性が高いことが明らかになりつつある。
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