平成22年度の研究目的は、先行研究から理論を導き出し、インタビュー調査などの質的調査で、その理論の整合性を確認し、問題点の抽出と理論モデルの構築にある。第一のポイントの先行研究からは、ソーシャル・ビジネスはもちろんソーシャル・エンタープライズやソーシャル・イノベーションに関係する理論が十分展開していなかった。このあたりは『ソーシャル・ビジネス』(中央経済社)で成果を発表する。しかし、関連する制度的企業家論はソーシャル・イノベーションの制度変革について十分な説明力をもっていたが、逆にイノベーションを創出する部分について十分な説明力をもっていなかった。ゆえに、ソーシャル・ビジネスの構築にあたっては新たな理論構築が求められていることが明らかになった。 第二のポイントの理論モデルの構築は、マルチステイクホルダーとの相互関係を分析視点として、23の企業やNPOに対してインタビュー調査や資料を収集し質的分析をおこなった。この結果、以下のポイントが共通のキーワードとして確認できた。それは、企業内に複数の企業家が存在し、組織外にも専門家などの支援グループつまり企業家グループが存在していること、マルチステイクホルダーとの相互関係の起点は人間のみならず、組織、ビジネスモデル、商品などの非人間のアクターの存在が明らかになった。 第三のポイントの発見した事実から理論モデルを構築することは、非人間のアクターを扱う理論としてアクターセオリーネットワーク理論などがあるが、相互関係の記述を主たる目的としているため相互関係を説明するができない。アクターネットワーク理論を参考としながら新たな理論モデルの構築が必要となっていることが明らかになった。
|