近年、日本の製造企業の収益性は低迷しており、サービス事業分野への進出が課題であると言われている。しかしながら、日本の製造企業のサービス事業への展開及びその成果について、実証的に分析した学術的成果は乏しい。製造企業にとってサービス分野への事業展開は、必ずしも関連分野の多角化ではなく、いわゆる非関連分野の多角化である場合も多い。そのため、事業展開に必要となるマネジメントが大きく異なり、一般に収益性が低下する可能性もある。本研究は、日本の製造企業のサービス事業への展開に関して、統計データを用いた大規模な定量分析及び詳細な事例分析を行うことにより、その動向及び収益性との相関を明らかにすることを目的としている。 従来の多角化研究の多くは、データ収集上の制約から、多くても100社程度を分析対象としており、また、詳細な定量分析を行うことが困難であった。本研究では、経済産業省により集計されている企業活動活動基本調査のデータを用いて大規模なサンプルで実証分析を行った。分析の結果、製造業のサービス化は想定よりも進展していないことが明らかになったが、産業別に大きなばらつきがあることも分かった。また、収益性を被説明変数とした重回帰分析を行った結果、サービス化比率が高いことが収益性に寄与しているという結果が得られた。その一方で、研究開発費比率と本業の売上高比率が高い企業ほど収益性が低い傾向にあるという結果が得られた。この結果は、近年の日本製造企業の苦境を端的に示しているが、それ故に高度なサービス業への進出が必要であることも示唆していると考えられる。 また、本業で蓄積された高度な技術を活用してサービスイノベーションに成功している企業を対象に詳細な事例分析を行った。この結果、サービス事業の展開を視野に入れた製品開発を行う垂直統合型の事業形態の構築が競争優位の源泉になり得ることを見出した。
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