■本研究の目的:日米の2008-09年選挙とその後の政権運営における、対有権者市場開発訴求戦略技法としての政治マーケティングの展開とその民主的意義を、異なる政治制度を架橋する多元的モデルに基づき実証的に解明する。 ■平成25年度研究実施計画の焦点:日米の事例分析を踏まえた、政治マーケティングの民主的機能と意義の検証評価のための理論的・手続き的枠組みの確立 ○研究成果 日米事例研究を通じて、選挙および統治のマーケティング・モデルの妥当性を検証し、既存モデルの限界と精緻化の方向性を明らかにした。またマーケティング適用の民主的意義をめぐる肯定的否定的評価の対立軸を整理検討し、米国政権の諸事例におけるマーケティングの果たす役割の両義性を実証的に示した。日本事例分析を含めてこれら成果をまとめた、我が国初の政治マーケティングの学術研究書(単著)を、2014年1月に出版した。 ○成果の意義 ①選挙と統治のマーケティングは、達成目標と過程、資源、関係構築の範囲など多くの違いがあるため、選挙モデルを適用する「選挙運動型統治」は実際には困難で、党派対立などの反動を招く。②世論に聴き世論を導き、結果を出す政権運営の戦略技術としての統治マーケティングは未成熟で、しかも政治環境や政治制度によって多様な形を取りうる。マーケティングの意義自体も、政治制度や政党・政権など実施主体によって異なる。ゆえに国際比較研究では、米国のモデルと評価規準の単純な適用は危険である。③日本の政党や政権は、未だマーケティングを政治運営の組織的な戦略技術として利用する段階に至らないが、ツールの利用は高度化している。第二次安倍政権では、憲法改正など挑戦的議題推進、政権安定化を目指すブランド構築、官僚や支持団体など対ステークホルダー関係の再編、政権発信力と政治主導重視に加え、選挙制度改革などマーケティング推進の環境条件は整いつつある。
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