研究概要 |
本研究は、昨年まで行った,日本・韓国の観光に関する基礎調査や実際の訪日旅行の経験の調査を踏まえ,実施した質的調査をもとに,質問票を中心とした量的調査を行った.具体的には,「旅行中に障壁を感じた事柄」,「その障壁への対応の成否」,「その経験への自己評価(満足か不満足か)」を軸にした質問とすることで,どのような障壁が満足に繋がりやすいのか,そして障壁への対応の成否は満足とどのように関係しているのかを分析した.分析の結果は,質的調査で指摘された「障壁のようで障壁でない」とも言える状況の存在は,量的調査からも裏付けられ,それらは障壁への対応と旅行経験の満足/不満足をクロスさせた場合に端的に示された.勿論,一般的な傾向として障壁に「対応できた」のであれば旅行経験の満足度は高く,「対応できなかった」場合は不満足となる.しかし,より詳細にみると,障壁の種類によって差異が存在していた.「対応できた」と回答した者のなかにも旅行経験については「不満足」としたものが多い.だが「レストランなどで韓国語の対応のスタッフがいない」という設問では,「対応ができなかった」と答えたにもかかわらず結果的にその経験を「満足」とした者が多かった.障壁には「対応できても不満が残る障壁」と「対応できなくても満足できる障壁」が存在しているのである.質的調査の結果を参照すれば,前者は文字通りの障壁として否定的に語れ,後者は「本場の経験」というように障壁であっても肯定的に語られうる可能性を有していると解釈できる. 既存の調査に見られた「言語」や「飲食」,「交通」といったカテゴリーは,確かに訪日韓国人個人旅行者の障壁として認識される状況を理解する上で一定の有用性があるものの,同カテゴリーに括られているなかに異なる含意の経験が混在しているという本研究の質的調査で明らかになった点について量的調査の面からも確認されたといえよう。
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