研究課題/領域番号 |
22530475
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武田 史子 東京大学, 大学院・工学系研究科, 准教授 (70347285)
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キーワード | 会計学 / 経営学 |
研究概要 |
研究室に所属する学生、川島辰吾と一緒に以下の研究を行った。本研究では、1993年と2001年における株主代表訴訟の制度変更に着目した。1993年の制度変更は、株主代表訴訟を活性化させる目的があったが、2001年の変更は、濫訴を防ぐことを目的としていた。これら2件の制度変更に関係する一連の報道が、東証一部上場企業の株価に与える影響を、イベント・スタディを用いて測定した。 イベントの抽出は、「日経テレコン」を用いて「商法 改正 株主代表訴訟」というキーワードで1993年と2001年のニュースを検索し、それぞれ21個、19個のイベントを選んだ。これらは法改正の可能性を高めるイベントである。期間はそれぞれ、1992年2月~1993年6月と、2000年9月~2002年4月になる。対象は、先行研究において訴訟リスクが高い産業とされた、電子機器、医薬、サービス、小売りの4つの業種のうち東証一部上場している企業とした。 次に、被説明変数を産業別のポートフォリオのリターン、説明変数をTOPIXのリターンと個別のイベントを表すダミー変数とするマーケット・モデルに基づいて、異常収益率を推定した。推計期間は、1993年の法改正に対しては1991年1月~1993年6月、2001年の法改正に対しては2000年9月~2002年4月とした。 その結果、まず1993年の商法改正において、医薬品産業の株価はイベントに対し有意にネガティブに反応した。このため、1993年の商法改正に伴う株主代表訴訟の活性化は、訴訟リスクの高い業種の企業価値にネガティブに影響したと考えられる。一方、2001年の商法改正において、4つの産業の株価はおおむね統計的に有意にポジティブに反応した。このため、2001年の商法改正に伴う、株主代表訴訟の乱用に一定の苗止めをかける法改正は、訴訟リスクの高い業種の企業価値にポジティブに影響したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、1993年と2001年における株主代表訴訟に関する法改正につながるイベントに対して、訴訟リスクが高いとされる産業の株価反応を測定するのが、研究の第一の目的であった。その目的はおおむね達成された。一方で、分析結果は、明確に一つの方向を示すほど強いものは得られなかった。このため、株価反応と企業特性との関連について、予定していたクロスセクション分析は行わなかった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で明確な結論が得られなかったため、今後の計画を見直し、別のやり方でイベント・スタディを行うことを計画している。具体的には、株主代表訴訟の対象となった企業に対し、提訴に関するニュースが株価に与えた影響を測定する。次に、株価反応が、制度変更の前後でどのように異なるのかを比較する。さらに、株価反応が、業種、規模、監査の質、株主構成などといった企業特性に、どのような影響を受けているのかを、クロスセクション分析で明らかにしたいと考えている。
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