新しい財務諸表の表示モデルに対応した所有者持分会計論の構築に向けて、平成23年度は、以下の成果が得られた。 (1)報酬型ストック・オプションや自己新株予約権の会計処理で明らかなように、株式か新株予約権かという法的形式に基づき会計処理を行うことの限界は既に指摘されていた。株式と新株予約権という法的形式の違いに左右されない会計処理については、所有者持分を狭義で定義しながら、認識基準の前倒しと測定基準の厳格化を組み合わせることによって、議論できることが明らかになった。 (2)国際基準採用国の増加に伴い国際的な利害調整に時間がかかるようになったため、国際的な会計基準統一の速度も低下している。持分プロジェクトは一時停止しており、当面、大きな基準変更は行われない情勢にある。なお、公正価値評価指向の資本計算と原価評価指向の資本計算を組み合わせた二元的な資本計算について、資本会計に関する会計基準の過去の経緯を踏まえて、ACCOUNTING FOR EQUITY AND THE STATEMENT OF CAPITALIZATION AT FAIR VALUEと題する論文にまとめ、2011年11月のハノイ貿易大学主催の国際研究集会と2012年3月の経営・経済・情報技術国際研究集会で発表した。 (3)アジアにおけるイスラム金融の発展が、少なくとも法的形式上は債務証券でない新たな範疇の金融商品を生み出している。アジア会計学会では、そのような金融商品を取り上げた研究報告が行われており、債務証券と持分証券の議論における新たな論点となることが明らかになった。
|