国際基準、米国基準、日本基準、いずれにおいても、純利益と包括利益の両方が示されるようになっており、二元的な利益表示が行われるようになった。1970年代から1980年代にかけて、1970年代のインフレーションを背景として、多元的評価が行われ、異なる資本維持概念に基づく、多元的な利益測定が行われた時代があったが、現代における二元的な利益表示は、リサイクルが徹底されることを前提とすれば、測定基準の多元性ではなく、認識基準の二元性によって、説明することができる。その他有価証券評価差額金などの時価評価差額も包括利益の計算要素となっていることから、純利益のみならず、包括利益についても、名目資本維持計算が行われていることがわかる。 国際基準・米国基準の持分プロジェクトにおいて提案されていた持分時価変動明細表については、新株予約権の時価変動に関する情報の価値関連性という観点から、実証研究が必要とされている。わが国における新株予約権戻入益については、価値関連性が確認できなかったことから、狭義資本説を採用した場合の効果を検討する上で有用なデータが得られるものと考えられる。ただし、株式と新株予約権を法的形式に基づいて区別することには限界があり、株式報酬型ストック・オプションのように経済的実質は株式でありながら、法的形式は新株予約権という金融商品が、既に普及してしまっている。 財務諸表の表示に関する国際基準は、純利益と包括利益が共存し、かつ、リサイクルも相当程度行われるものとなっていることから、認識基準の異なる二元的な利益計算が行われていると解釈することができる。
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