本研究は、企業利益の不確実性リスクの重要な決定要因として、損益分岐点比率とそこから導出される営業レバレッジを位置づけ、それを推定するために四半期財務諸表がどの程度有効に利用できるかを実証的に分析した。損益分岐点比率の算定のために、営業費用を変動費と固定費に区分する方法のうち、総費用法と最小二乗法を取り上げ、これらと年次財務諸表および四半期財務諸表を組み合わせて形成した、延べ8通りの推定方法の間で、相互の優劣を比較した。 優劣評価のために用いた基準は、次の3通りである。第1に、推定した変動比率が100%を超えず、かつ固定費額がマイナスにならないサンプル企業の割合が高いほど、そのモデルは優れていると判断する。第2に、証券投資リスクの尺度としての投資収益率の標準偏差、および資本資産評価モデルの推定ベータ値との間で観察される相関が強い推定値を生じるモデルほど、よりいっそう優れていると判断する。第3に、株式価値評価モデルとして残余利益モデルを想定した場合にモデル予想利益と現在株価から算定されるインプライド資本コストとの間で、よりいっそう強い相関を示す推定値を生じるモデルほど優れていると判断する。 調査の結果、第1、第2および第3の3通りの評価基準に共通して、優れたモデルとして選択されたのは、2年分の四半期データである8個の四半期ベースの売上高、売上原価、販売費及び一般管理費のデータに、最小二乗法を適用して推定される損益分岐点比率と営業レバレッジであることが判明した。この分析結果は、企業利益の不確実性リスクを把握するために損益分岐点を推定するという用途に関して、年次財務諸表を用いるよりも四半期財務諸表を用いる方が、よりいっそう優れた推定が可能になることを意味している。本研究を通じて、四半期財務諸表による損益分岐点推定の有効性が確認された。
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