「研究の目的」および「研究実施計画」に記載の通り、報告利益と課税所得の質とその時系列変化を実証的に比較して、両者のそれぞれの特徴を解明するために、本年度においては、まず先行研究のサーベイを行い、利益の質を構成する時系列特性(持続性、予測可能性および変動性)、異常(裁量的)会計発生処理高、さらに保守性や価値関連性といったさまざまな特性についての測定手法を整理した。 次に、わが国上場会社の1982年3月期から2009年3月期までの公表情報に基づいて、報告利益と課税所得の乖離の程度と、それぞれの時系列特性を調査した。その結果、1999年3月期から2004年2月期までの5年間を挟んで、報告利益と課税所得課の乖離が有意に拡大していることが観察された。それぞれの時系列特性については、報告利益の持続性には、有意な変化はみられないものの、業績の良い企業の報告利益は、課税所得よりも持続性が高くなる傾向にあること、業績の悪い企業の報告利益の持続性は、業績の良い企業と比べると一貫して低いことが観察された。予測可能性は、業績の良い企業では、報告利益も課税所得もともに低下傾向にあるものの、課税所得と比べると、報告利益の方が高いこと、業績の悪い企業でも、報告利益の予測可能性は低下傾向にあるものの、業績の良い企業と比べると低いことが観察された。変動性については、業績の良い企業では、報告利益も課税所得もともに変動性が低下しており利益平準化がみられるものの、報告利益の方が一貫して変動性は低いので、より平準化しやすいことがわかった。業績の悪い企業では、報告利益の変動性は上昇傾向にあり、業績の良い企業とは逆の傾向がみられた。 以上の結果は、会計基準と税務法令の趣旨が実現されているかどうかの評価に役立つ。
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