「研究の目的」および「研究実施計画」に記載の通り、報告利益と課税所得の質とその時系列変化を理論的・制度的・実証的に比較し、それぞれの特徴を解明するために、前年度に引き続いて利益の質を構成する時系列特性および異常(裁量的)発生処理高の時系列的推移を調査するとともに、国際財務報告基準(IFRS)のわが国の財務会計および課税所得計算に及ぼす影響を検討した。 制度的には2000(平成12)年前後までの会計基準と税務法令の調和志向から、それ以後の分離志向を反映して、会計基準の規定と課税所得計算規定との相違が増大している。この制度上の変化を受けて、将来指向・市場指向で原則主義・マネジメントアプローチの下で経営者の裁量を拡大させやすい会計基準に従って算定される報告利益は、過去指向・組織指向で細則主義・画一主義の下で経営者の裁量を制限しやすい課税所得計算規定に従って算定される課税所得に比べて、変動性が低く平準化されやすい一方で、より保守的な性格を有することが観察された。この結果は、1998(平成10)年度以降の税制改正によって、課税所得計算における経営者の裁量を制限し保守的な会計処理を抑止することが、ある程度は達成されていることを示唆している。 しかしながら、課税ベースの拡大という近年の税制改正の目標が十分には達成されているとはいえない。従来は、報告利益く課税所得という会社が圧倒的に多かったのに対して、近年、報告利益<課税所得となる会社が増加しているからである。この原因としては、リストラに伴う人件費関係の削減と、持株会社化に伴う受取配当金の利益に占める比重の増加がある。近年の経営者の裁量を制限し、保守的な会計処理を抑止するための税制改正は、結局、一時差異を増加させただけで、課税ベースの拡大にはつながっていないことが示唆される。
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