本研究は、従来のエンパワーメント研究では解明されてこなかった「経営理念・組織文化」と「組織成員」のインターラクションプロセスの解明に重点を置き、それを、ホメオスタシスのフィードバック関係や記憶の再構成等を引き起こす脳の神経細胞である「ニューロン」の特質や性質を用いた脳科学の視点から考察することを目的としている。本年度は、本研究の流れ(「文献レビュー・フレームワークの構築」→「アンケート調査」→「インタビュー調査」→「再評価・再解釈」)の中の初年度にあたり、「既存文献を整理し検討を加え、理論的フレームワークの構築の下準備をすること」が主な目的であった。なお、レビューの視点は、ニューロンへの働きかけを用いたマネジメントにどのように関わるかである。 まず、邦・洋を問わず、脳科学に関する新しいテーマに関して、例えば、ミラーニューロンや脳機能のイメージングに関する文献を収集した。ミラーニューロンに関しては、ある特定の行動が脳のあるニューロンを発火させ、物まねを起こすことから、それを学習あるいは洗脳と捉え直すことで、エンパワーメントへの応用の可能性を見出した。次に、経営学分野と管理会計分野の既存のエンパワーメントに関する文献を収集し、これまでの管理会計分野の研究がハードな側面に著しく偏っていたこと、また、経営学分野の研究の中に脳科学の成果を取り入れた研究が殆どないことを示した。最後に、Johnson & Broms (2000)が提唱した生命論的パラダイムを、現場に適用するために宮脇(2010)で検討した戦術的ピリオダイゼーション理論に基づく組織マネジメントの要素を補完するために、例えば、人間の組織と癌細胞の関係、また、乳児と予防接種の関係等に関する文献を収集し、独自の視点から、ニューロンに働きかけるエンパワーメントでも、全体は部分の総和以上である視点が重要であることを明らかにした。
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