昨年度、共同で行った日中企業のリスク情報の開示に関する調査を公表した。リスク開示情報に着目したのは、自己責任を負う投資家にとって、投資意思決定に役立つもののひとつにこの情報があると考えたからである。この研究では、ニューヨーク証券取引所と日本または中国の証券市場に上場している日本企業と中国企業におけるリスク開示の状況を比較した。その結果、日中企業は、アメリカでは、SECによって要求される情報を開示しているが、本国では、同じ内容の情報を開示していないことが明らかとなった。本国とアメリカでの開示内容が相違する理由については、本国の会計制度があると考えられる。 日中韓三国のうち、韓国は2012年から国際財務報告基準(IFRS)をアドプションしたため、会計制度が大きく変換した。そこで、日中二国の検討を中心とした。日本と同様、中国においても金融機関を媒介とした間接金融が大きな割合を占めていることがわかった。金融機関からの調達が主流またはその割合が高いのであれば、利害調整(特に債権者保護)を重視した会計制度になると考えられることができるのに対して、証券市場からの直接金融の割合が高い場合には、投資家への情報提供機能にウエイトを置いた会計制度になると考えられる。このことは、株式会社会計における計算構造では、貸借対照表の資本に特徴が表れると予想されるので、その分析を行った。 中国では、2006年に会社法が改正されたが、日本と同様に法定準備金に関する規定がある。この点で、利害調整の中心となる債権者保護を利益留保という形で計算構造化しているということができる。さらに積み立ての上限は、日本よりも高めに設定されている。間接金融と関連する債権者保護の観点から見たとき、日本の会社法の規定が後退していると考えられるのに対して、中国の方が厳しいということができるであろう。
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