将来情報として自発的に開示される事例が増えている中期経営計画を題材に,これらに関する情報効果と会計政策を分析した。まず中期経営計画の目標値の達成度については,売上高,営業利益,当期純利益のいずれにおいても低水準であった。また,中期経営計画情報の開示と株式リターンの関係についてのイベント・スタディでは,当該情報は必ずしも正のメッセージとしては受け止められていない可能性が示唆された。これらより,過去情報と将来情報を橋渡しする情報としての役割は,十分に果たせているとは言い難い。 しかし,中期経営計画情報を投資家向け説明資料と位置付ける企業では,計画値の達成度において,そうでない企業に比べて相対的に高い実績を示していた。またROA等の財務業績,トービンのQ等の企業価値関連指標も相対的に高いことが明らかとなった。さらに,中期経営計画情報の開示による株価効果は,直近の業績の良好さ,経営陣のコミットメントの強さ,ローリング型の柔軟な計画策定が行われている企業については累積超過リターンが高くなることも明らかとなった。 中期経営計画の達成度と会計政策の関連性については,目標値を達成した企業は利益減少型の会計政策を選好していた。一方,未達企業は平均的には利益増加型の会計政策を選好しているが,その目的は決算短信の業績予想をターゲットとしている傾向がみられた。このように未達企業においては,中期経営計画の目標値達成という行動の優先順位は決算短信の業績予想値達成という行動よりも劣位に位置付けられていることが示唆された。しかしながら,中期経営計画情報に対するケアが十分でないと,当該情報に対する市場のレピュテーションが低下していくことが危惧される。中期経営計画情報が投資意思決定に有用であると市場に評価されるためには,目標値に対する達成力と環境変化に柔軟に対応可能な策定体制が課題であるといえよう。
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