本年度は、2004年から2008年までに利益訂正を公表した、わが国の企業に関して、公表直後の株式市場の反応を分析し、これを研究論文として公表した。そこでは、利益訂正の経済的重要性を確認するとともに、不正等の諸特性が株式市場の反応に与える影響を明らかにすることができた。また、このサンプルを利用して、利益訂正の促進要因と抑制要因の分析を行った。とくにガバナンスの特性と利益訂正の発生確率との関係について分析し、これを論文としてまとめている(なお、当該論文は未公表である)。そこでは、企業内の知識を有する監査役、具体的には、元経理部長が監査役であることが、利益訂正の抑制要因として重要な役割を担っていることなどが明らかとなった。この点については、さらに、理論的検討を必要とするものであると考える。さらに、本研究では、日米比較において内部統制監査等の導入後の期間における訂正の現状を検討することを計画しているので、より近年の利益訂正をサンプルに含めるために2009年度の財務諸表の訂正について東京証券取引所のTDnetデータベースを利用して収集した。新たに収集した財務諸表の訂正について、その訂正内容を整理するとともに、訂正公表企業の特性についてのデータベースを作成してた。これらの作業を行うとともに、来年度に米国において研究するための準備として、米国における近年の財務諸表の訂正に関する現状を検討した。とくに、会計上の誤謬をめぐる重要性の判断基準の変化が訂正の実態に与える影響について検討する必要があることが明らかとなった。この点については、来年度における重要な研究対象となると考えられる。
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