昨年度に追加的に収集した2009年において生じた利益訂正をサンプルに含めたうえで、これまでの行った株式市場の反応に関する研究および企業ガバナンスと利益訂正の発生確率との関係についての研究について再度分析しなおした。さらに、本年度においては、企業ガバナンスのなかでも、利益訂正公表後における企業ガバナンスの変化についての研究と、財務諸表に誤謬が含まれることによって利益訂正が将来生じることを予測するためのモデルの開発を行った。2004年から2009年における利益訂正を対象とした分析から明らかになった点は、次のとおりである。 ①訂正公表によって訂正企業における株価が下落するが、それは、訂正額が大きいほど、訂正範囲が広いほど、訂正原因が意図的なものであった場合、証券取引等監視委員会によって訂正が命令された場合に、株価のマイナスの反応は大きい。これは、市場が訂正内容の詳細を情報として株価に反映していることが示している。②特定企業の利益訂正による株価のマイナスの反応は、訂正企業の株価変動を引き起こすだけでなく、同業他社の株価に伝播する。とくに、利益の質が低い同業他社に強く伝播する。これは、特定企業の訂正が関連企業の財務報告の信頼性に影響することを意味する。③取締役や監査役の財務専門性が利益訂正の発生確率に影響する。また、財務専門性の内容(たとえば、元経理部長か、公認会計士か、税理士かなど)に依存して利益訂正の発生確率が影響を受ける。さらに、利益訂正の公表企業は企業ガバナンスの改善を図っている。④利益の虚偽記載が後に訂正されることを予測するためのモデルを検討したところ、利益率、負債比率などの財務特性に加えて、発生項目額を組み込むことでその予測の正確性は上昇する。また、ガバナンスに関連する情報を予測モデルに組み込むことによって、予測の正確性は著しく上昇する。
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