本年度の研究は、制度上の水道料金に対する中心的な思考方法である総括原価主義、およびその構成要素である資産維持費についての検討を行った。公益事業活動にとって重要なことは、必要な財源を生み出すための方策に対する適切な根拠と説明である。事業の施設実体の維持、つまり実体資本維持のために、施設の建設、改良、再構築及び企業債の償還等に充当される資産維持費は、いかなる概念にもとづき説明されるべきであるかを4つの視点を設定し考察した。第1の視点は、総括原価における減価償却費の取り扱いを再考する。すなわち資産維持費を廃止し、それに代わるものとして対象資産の現在価値にもとづく減価償却費を総括原価に算入する。第2の視点は、資産維持費を資本コストと捉え、資産維持費の構成要素である資産維持率を、将来生じ得る資金調達の構成比と、利子率もしくは調達コストの加重平均によって算定しようとするものである。第3の視点は、資産維持費を水道事業活動の目標利益と考えることである。ここでの資産維持率は、投下資本に対する資本利益率となる。第4の視点は、資産維持率に物価変動と技術の進歩を勘案した数値を採用することである。 上記4つの視点は、資産維持費の有する基本的目的を一にしながら、その遂行のために財源をいかなる形で捻出するかの方法を異にした。筆者は第3の視点が最も資産維持費の説明に適合するものと考える。目標利益と位置付けられた資産維持費は、当期の純利益の形で現れ、キャッシュ・アウトフローに充当されなかった部分は内部留保となる。適切な内部留保は水道事業の自己資本を強固にし、財務体質の安定に繋がる。それは、ひいては水道事業の長期的安定、受益者への安定的貢献を確保することでもある。
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