本研究の目的は、会計史研究を豊かにする新しい会計史研究の可能性と課題を、歴史の証拠と認識論・理論を巡る方法論争と同一の対象を巡る具体的な解釈論争に基づいて明らかにすることにある。この論争のうち本研究で取り上げるのは以下の6つの対象領域の論争である。欧米の会計史の領域では、新しい会計史が登場した1990年代以降から、歴史学と同様に異なる理論的枠組みの会計史研究の間で、歴史の証拠と認識論・理論を巡る方法論争が行われるようになり、同一の対象を巡る具体的な解釈論争も行われるようになっている。この論争の中心として6つの対象領域が識別できる。 1. 1840年代前後のアメリカ陸軍省・国営スプリングフィールド兵器廠の管理会計。2. アメリカの管理会計(原価計算)の起源から現在までの通史を扱うジョンソン&キャプランの著作。3. イギリスの産業革命期のキャロン社における管理会計。4. 1980年代のアメリカのキャタピラ社ディケータ工場のリストラにおける管理会計。5. 1930年代のアメリカの証券開示規制における会計。6. 伝統的会計史と新しい会計史との歴史の証拠と認識論・方法論。 平成22年度はこれらの論争に関連する文献・資料の収集と研究計画の立案に重点を置き、他方で上記2.の範囲の研究を行い、その成果を研究会・学会または学術的定期刊行物により発表することを予定した。 関連する研究実績としては、1件の学会報告と2件の文献を発表した。このうち上記2.に直接該当する実績は1件の文献(「管理及び管理会計・原価計算の起源または現出に関する経済合理主義的歴史解釈とフーコー主義的歴史解釈の到達点と課題-第2部」)であり、そこではフーコー主義的歴史解釈と経済合理主義的歴史解釈の争点の根源とフーコー主義的歴史解釈の特徴を明らかにしている。
|