研究課題/領域番号 |
22530502
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
記虎 優子 同志社女子大学, 現代社会学部, 准教授 (50369675)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 企業の情報開示 / 記述情報 / 内部統制システム / 会社法 / 基本方針 / 累積異常リターン / 個別リスク / テキストマイニング |
研究概要 |
本研究では、過年度において、コーポレート・ガバナンスに関連する情報開示の中でも、特に、会社法に基づく内部統制システム構築の基本方針(以下、基本方針)についての適時開示資料に着目して開示実態調査を行った。開示実態調査の結果、上場企業等の中には、基本方針を最初に制定した場合だけでなく、その後に基本方針を改定した場合にも、基本方針について遅滞なく適時開示している企業が多数存在することが分かった。また、そのような企業の中には、適時開示資料の中で、基本方針の改定の理由を合わせて開示している企業が少なくないことも分かった。 そこで、今年度には、開示実態調査の結果を利用して、基本方針についての適時開示に対する証券市場の反応を累積異常リターンや個別リスクに着目することにより検証した。検証の結果、何回も基本方針を改定して内部統制システムの構築に他社よりも熱心に取り組んでいれば、証券市場に好感されることを明らかにした。また、基本方針の改定についての適時開示に際して改定の理由の内容を問わずただ改定の理由を開示しているというだけでは、証券市場には必ずしも好感されないことを明らかにした。さらに、証券市場は、基本方針の改定理由の具体的な開示内容から企業の内部統制システムの構築の背景を評価しており、改定理由の内容によっては改定の理由を開示していない場合よりも、証券市場が嫌気してしまう場合さえあることを明らかにした。 さらに、基本方針についての適時開示によって個別リスクが総じて低減することを明らかにした。特に、最初に制定された基本方針についての適時開示の場合や改定回数3回目以上の基本方針の改定についての適時開示の場合といった、開示によって企業の内部統制システムの構築にかかわる情報の質が改善される度合いが大きいと期待される場合に、開示による個別リスク低減効果が大きいことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コーポレート・ガバナンスに関連する情報開示の中でも、本研究で着目している内部統制システムについての開示に対しては、先行研究においてすでに関心が向けられている。内部統制システムについての開示の効果を解明することも、かかる開示に対する証券市場の反応を検証することによってすでに試みられている。 しかし、先行研究では、金融商品取引法に基づく財務報告に係る内部統制報告書制度を対象として開示の効果が捉えられている。日本では、内部統制システムにかかわる制度開示には、内部統制報告書制度以外にも、本研究で着目している会社法に基づく内部統制システム構築の基本方針(以下、基本方針)についての開示もあるが、先行研究では、基本方針についての開示を対象として開示の効果を解明することは試みられていない。 企業の情報開示に対する証券市場の評価を解明するに当たっては、株式リターンに着目する研究が主流である。内部統制報告書制度を対象として、内部統制システムについての開示の効果を捉えている先行研究においても、株式リターンに着目することにより開示の効果が捉えられている。つまり、内部統制システムについての開示の効果によって株価の水準が影響を受けるか否かについてはすでに検証されていると言える。 他方で、企業の情報開示に対する証券市場の評価を解明するに当たって、リスクに着目する研究は少ない。内部統制システムについての開示についても、本研究のようにリスクに着目することにより開示の効果を解明している先行研究は、未だ存在していない。 こうした中で、本研究の貢献は、基本方針についての開示を対象とし、かつリスクに着目することにより内部統制システムについての開示の効果を解明したことである。本研究では、特に個別リスクに注目することで、証券市場の不確実性に対して内部統制システムにかかわる開示がどのように影響を与えるのかを解明した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、すでに、コーポレート・ガバナンスに対する各企業の考え方を追究するために、コーポレート・ガバナンスに関連する記述情報の開示の中でも、特に、会社法に基づく内部統制システム構築の基本方針(以下、基本方針)についての適時開示資料に着目して、開示実態調査を行った。 これまでの研究の過程で、基本方針についての適時開示をめぐる企業の情報開示行動の分析から、内部統制システムをめぐる企業の開示姿勢だけでなく、内部統制システムの構築に対する企業の意識や対応を解明できる見込みが大きいことが判明した。なぜなら、基本方針についての適時開示に対する企業の取組みには、企業の内部統制システムの構築の積極度とその開示姿勢の両方が影響を与えているとみることができるからである。すなわち、基本方針の改定について適時開示するには、当然基本方針を改定していなければならないが、会社法は基本方針を改定することまでは明文の規定により義務付けているわけではないから、最初の基本方針を制定した後も内部統制システムの構築に積極的に取り組んで基本方針の見直しを行うかどうかについては、企業に自由裁量の余地がある。その上、証券取引所の自主規則には基本方針についての適時開示を要求する明文の規定がないために、たとえば基本方針について適時開示するかどうかだけでなく、基本方針を改定した場合に改定の理由まで合わせて開示するかどうかといった、内部統制システムをめぐる開示姿勢についても、企業の自由裁量に任されている側面がある。 そこで、今後は、基本方針についての適時開示に引き続き焦点を当てて、さらに詳しく分析することにした。これにより、コーポレート・ガバナンスの具体的な取組みの1つである内部統制システムの構築に対して企業がどのように取り組んできたのかという、内部統制システムの構築をめぐる企業特性を定量的に捉えることができると期待される。
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