本研究は,会計基準の国際的なコンバージェンスを前提として,会計基準,会計実務,市場システム(法制度・会社制度)を対象に,1990年代に生成した公正価値会計の意義を再評価し,公正価値会計の将来的な展開の可能性を実証的かつ理論的に検討することを目的とするものである。とりわけ、韓国、中国におけるIFRS導入に伴う問題点を明らかにすることにある。中国については、中国の経済状況や上場企業の8割が製造業であることを考えるとIFRSのアドプションはあり得ず、会計基準が法律となっていることからも立法権を放棄することになるので引き続きコンバージェンスを行う方針であることがわかった。また、コモンコントロールが一般的であるので企業結合における持分プーリング法の堅持、中国国営企業を保護する観点から関連当事者間取引の開示範囲の限定、市場が未成熟な状態にあるため賃貸用投資不動産の公正価値評価の回避など、重要な部分でカーブアウトしていることが判明した。なお、韓国についてはK-IFRSの適用開始後の状況について引き続き研究を行いたい。また、日本、韓国、中国のみならず、アメリカやカナダ、イギリスにおいても会計制度の2分化現状が起きており、上場大企業向けの会計基準と中小企業向けの会計基準を設定することにより、実務にニーズの合った会計制度の設計が行われるようになっている。以上を踏まえ、日本はIFRSについて必要な会社が任意適用で、業種別規模別のニーズにあった会計基準を策定することが本来の会計基準の在り方ではないかと考えるに至った。
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