平成24年度の研究業績は、ドイツ会計制度の特徴が資本市場指向と非資本市場指向の会計システムの連単分離方式にあるとしたうえで、資本市場指向のIFRS準拠の連結決算適用の一方で、個別決算におけるHGB(商法基準)準拠とIFRS準拠が生み出す論点である(1)資本維持・債権者保護重視の存続をめぐる議論と(2)税務上の所得計算原理(商事貸借対照表の税務貸借対照表に対する基準性原則)の改廃をめぐる議論を文献研究にもとづき論究した。 前者の資本維持・債権者保護の問題は、ドイツの個別決算の会計機能にかかわって、配当財源決定システムと欧州資本指令との関連で議論されているもので、ドイツ個別決算が現行の商法基準準拠のまま、配当財源決定システムを維持する場合は、伝統的な制度にもとづく資本維持・債権者保護の枠組みであるのに対して、IFRS準拠による個別決算の配当財源決定システムに転換する可能性を考える場合は、伝統的な制度にもとづく資本維持・債権者保護の配当財源決定システムから、情報にもとづく資本維持・債権者保護の配当財源決定システムに転換することになる。具体的には、アメリカに代表されるようなゾルベンツテスト(支払能力基準による配当計算テスト)に移行することが考えられることを明らかにした。ドイツの場合のゾルベンツテスト構想は、伝統的な制度にもとづく資本維持・債権者保護の配当財源決定システムを支える会計テストとの併存を図る考え方を内包したものであるが、このゾルベンツテスト構想は、情報提供会計システムから概念的に分離して、キャッシュフロー重視の配当計算テストである。 後者の税計算テストの改革テーゼは、現行の商法準拠の確定決算基準の堅持か、独立税務会計への転換かを議論したもので、現状維持論がなおドイツの場合の大勢であることを確認できたとともに、欧州法人税課税ベース構想のなかで、今後、新たな展開を見せこと考えられる。この点、引き続き課題研究していきたい。
|