本研究は、言語発達過程にある子どもが、どのようにして、相互行為場面における多様な資源を利用しながら家族相互行為へ参加しているのかを実証的に明らかにすることを目的とした。会話分析の手法を採用し、子どもと養育者の実際の相互行為場面の録画データをもとに、緻密な事例分析を積み重ねてきた。その成果(の一部)として、以下のようなことが明らかになった。1)子どもは、例えば、自身の発話に対して養育者から適切な反応を得られない場合、単に先の自分の発話を繰り返すだけではなく、言語的・身体的・環境的資源を複合的に利用して、どのような反応を求めているのかを受け手により先鋭的に伝えることができる。このことは、自分の発話がどのように理解されたのか、また、その理解が適切でない場合は、どのようにそれを修復できるのか、という間主観的理解がかなり早期(対象となったのは、2歳児)に可能となっていることを示す。2)家族の相互行為場面において、養育者が他のことに注意を向けている中で、その場に存在する別の事物に養育者の注意を向ける方法として、子どもは、しばしば、「これ」などの指示詞を含んだ発話を養育者に向ける。そして、その発話に反応して養育者が子どもの方に視線を向けた後に、身体的・言語的資源を用いて養育者の視線をその事物に誘導する。このような指示詞の用い方は、必ずしも言語発達過程にある子どもに限定されているわけではないかもしれない。しかし、2~3歳児がこのように指示詞を用いているということは、指示詞の(現場指示的)使用が相互行為的にどのような働きをするのか(自分が現場にある事物を指し示していることを伝えるというだけでなく、受け手に共同注意を要請する働きがあるということ)、またその働きが適切に成し遂げられるためにどのように自分のふるまいを組織しなければならないのか、ということを早期に理解していることを示している。
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