研究課題/領域番号 |
22530513
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
今田 高俊 東京工業大学, 大学院・社会理工学研究科, 教授 (00107517)
|
キーワード | 東日本大震災 / 原発事故 / ゼロリスク要求 / リスクコミュニケーション / 不安の増幅的フィードバック / 信頼関係 |
研究概要 |
本年度は、東日本大震災と福島原子力発電所事故というカタストロフィックなリスクが発生したため、この事例を中心に分析を試みた。本研究との関連でおこなったことは、ゼロリスクを指向する社会におけるリスクコミュニケーションについて検討することにより「災害リスクソリューション」のあり方を提案したことである。 2011年3月H日の震災を経て、リスクコミュニケーションに関するさまざまな課題があらわれた。 日本はゼロリスクを要求する個人からなる社会であることである。このため企業、政府は国民の特性に合わせたリスク情報の開示を行ってきた。それはリスクレベルを詳しく説明しない(=安全の側面を強調する)ことでもある。企業、政府は風評被害の発生をおそれて情報を隠匿する。また、マスメディアも、風評被害を発生させるおそれのある報道には慎重になる。つまり人々の「ゼロリスク要求」が適切な情報共有を妨げることである。 一般の人は、専門的リスク情報を国あるいは専門家に委ねているが、その信頼感が低下すると「不安の増幅的フィードバック」が発生する。これを防ぐには、信頼関係の維持が不可欠である。また、今後のエネルギー政策を議論するためには、原発推進か脱原発か、の単純な二者択一ではなく、専門家から提示された、考え得る複数の選択肢のリスクを理解した上で議論を進めることが必要である。 ゼロリスク社会を超えてリスク適応度が高い社会につながるために必要なことは産官学のみならず一般市民などの異なる価値観のグループを超えた信頼を基盤とした対話である。それを政策の意思決定に生かすことで、リスク意識の高い中間グループを形成し、リスク適応度が高い社会につながる。その上で次世代エネルギーの議論が実りあるものとなる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、リスク応答的でかつ頑強な社会づくりのために、市民参加によるリスク管理を充実するためのリスクコミュニケーションの在り方について、行政・専門家・市民の三者によるリスクに対する理解、意思疎通、合意形成の視点から考察を加えることをひとつの目標としている。23年度の研究では、福島原発事故という災害により、日本では市民のゼロリスク幻想と行政・企業サイドが創り上げた安全神話の間に相乗作用が存在することを示すことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる24年度は、リスク応答的でかつ頑強な社会づくりのためのリスク学の枠組みを、以下の方針でまとめる予定である。(1)リスク社会への転換についての理論的考察、(2)リスクク指標の体系化、(3)社会リスク管理の在り方:公助・自助・共助、(4)リスクコミュニケーションの在り方。23年早々に東日本大震災と福島原発事故が発生したため、これへの学術的対応が不可避となったが、何とか本研究目的の枠組みに収まる方向で、その分析ができたので、最終報告にも活かせる形になった。
|