本研究では、リスクとは何であり、リスクがどのように生み出されどう分配されているのか、とくに今後、われわれはリスクとどのように向き合い、対応していけばよいのか、を明確にするために、ソリューション研究の視点から考察を加え、「リスク学」を構築するための枠組みについて幾つかの問題を検討した。(1)現実社会に存在する各種のリスクを網羅的に把握して、それらを測定する必要があり、そのためのリスク指標の体系化をおこなうこと。本研究ではその暫定版を作成した。(2)リスクリテラシーを涵養するための条件と方法を理論化すること。リスクに対応できる社会を構築するには、社会の構成員である個人レベルでリスクに関する理解を深めることにより、不確実性への対処能力を高める必要があり、そのための理論についての指針を示した。(3)リスクに関する正確な情報を、市民や専門家や行政などの関係者間で相互に意思疎通をはかることで、リスクの社会的受容や対応の合意形成をスムーズにすること(リスクコミュニケーション)、および共助によるリスク対応の在り方についての枠組みであるリスクガヴァナンスの定式化をおこなうこと。本研究では、研究の途中に発生した東日本大震災による原発事故や高レベル放射性廃棄物の処分問題を取り上げ、安全神話づくりや情報開示の不十分さが、いかにリスクコミュニケーションおよびリスクガヴァナンスが歪められてきたかを明らかにした。以上要するに、リスク学の構築には、リスク指標の体系化と測定、リスクリテラシーの涵養、およびリスクコミュニケーションを通じたリスクガヴァナンスの在り方が不可欠となることを明らかにした。
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