本研究の目的は、「現代的な多元主義状況を前提としたとき、社会と〈性別制度〉との関係をどのように規範的に構想できるか」という課題に対し、公共性を志向する一つの回答を提出することであった。具体的には、雇用、家族、政治的代表という、これまで〈性別制度〉との関わりが論争されてきた3つの個別領域における論点を取り上げた。前年度までに、J.ロールズの政治的リベラリズムを基にした多元的公共性の構想と、個別論点についての第1段階の考察を終え、最終年度である今年度は、多元的公共性の構想と個別論点との接合に重点をおき、研究まとめの作業へとつなげた。本年度の主な成果は以下のとおりである。 [1]『政治的リベラリズム』において、ロールズは我々の「理念依存的願望」に訴えることでよりよい社会に向けた試みへの動因となりうる、政治社会像の提出を試みた。ロールズによるこの共同性論の枠組みを改めて精査し、自らの包括的意味世界を公共的正義のビジョンと両立可能なものとして生きる個々人からなる共同性として、政治社会を構想しうる機制を明らかにした。 [2]多元主義的規範理論における性別制度の位置づけに関するフェミニズムからの批判に対して、[1]で考察した多元主義的政治社会を支える個々人の性能に注目することで、説得力ある応答をしうることを示した。 [3]政治的リベラリズムの構図をリベラリズムの外に向けて擁護する試みとして、[1]の考察がラディカル・フェミニズムおよび統合主義的信仰論からの政治的リベラリズム批判への応答としても位置付けうるものであることを示した。
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