この30年来、フランスでは市民参加への回帰現象が見られる。それは特に、都市計画、環境、健康に関する政策分野に著しい。また、市民参加のための種々の手続きが整備された。それは、住区評議会、都市計画ワークショップ、市民審査員、コンセンサス会議、熟議型調査、公開討論である。こうした手続きを通した市民の参加は、参加率、代表性、限定的インパクト、利益集団による道具化といった問題点を抱えている。しかし、以下に述べるように、フランスでは立法により市民の参加を促しており、市民参加の制度化が確認できる。 まず、市民参加制度の充実は1980年代以降の地方分権の流れと呼応する。1982年12月31日法によりパリ、リヨン、マルセイユに各区の施策に関する意見聴取の委員会が設置される。1992年2月6日法により、コミューンの利害に関する諮問委員会の設置ができるようになり、諮問型の住民投票制度が創設される。2002年2月27日法により人口8万人以上のコミューンに住区評議会設置が義務づけられる。2003年以降の一連の立法により、決定型の住民投票制度が創設され、公聴制度も整備される。 都市計画分野では、1983年に公的調査、1991年にコンセルタシオン、1995年に公開討論が制度化される。特に1995年2月2日法は公開討論全国委員会が創設し、社会的経済的にインパクトの強い計画、環境に大きな影響を与える計画について公的討論を義務づけている。 こうした市民参加制度は、市民が投票により選出する国会議員が決定する法律の全国画一的執行を民主主義であるとみなす従来の考え方からの大きな変化である。それは「公的なものの民主主義」もしくは「新しい共和主義」と呼べるものである。しかし、市民参加は教育水準の上昇、肥大化したピラミッド型組織の劣化という特徴を有する先進社会に共通する現象でもある。
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