今年度の研究において、次の点が明らかになった。①鹿児島県薩摩川内市甑島地区においては、地域ケア・システムの状況に大きな変化はなかった。ただし、薩摩川内市下甑町において、特別養護老人ホームの運営が市の直営から市社会福祉協議会への指定管理に移行するなど、アクターの状況に変化が見られた。また、津波災害を想定した災害時要援護者対策が、課題として意識されるようになった。これは、2011年以前はまったくなかったことである。②神戸市東灘区魚崎町では、災害時援護者支援という課題による地域住民の組織化という点では成果をあげたが、地区に関係する社会福祉法人との連携は課題として残った。魚崎町防災福祉コミュニティでは、南海・東南海地震による津波の浸水地帯の見直しを受けて、避難先を変更し、それに対処しうる避難方法の訓練をおこなった。③宮城県南三陸町では、今後の高台移転や公営復興住宅の建設を見越して、地域住民主体の地域ケア・システムの構築に向けた取り組みが始まった。南三陸町被災者生活支援センターは、被災した住民を生活支援員として雇用し、その人たちを社会福祉協議会のコミュニティソーシャルワーカーのもとに組織化し、仮設住宅の訪問業務にあたらせた。この生活支援員は、緊急雇用対策による一時的な任用であり、いずれは水産加工など本来の業務へと戻ることになる。福祉の仕事を離れても、生活支援員の業務経験で得た地域福祉のノウハウは生きる。他方、南三陸町では、地域社会の再編が予想されるため、高齢者に対する見守りやサロンなど地域福祉の取り組みが不可欠になる。このときに、生活支援員を経験した地域住民を主たる担い手とする地域ケア・システムの形成が求められる。現在の取り組みは、それをめざしたものであった。
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