本研究は、本田技研と現代自動車を研究素材とし、日本・韓国・中国の生産拠点におけるヒトの職業生涯と福祉に焦点を合わせることを通じて、アジアにおける持続可能な「企業―ヒト―地域」システムを模索することを課題とする。本研究の仮説は次の通りである。(A)「企業―ヒト―地域」システム(以下、システムと略す)は、サプライヤーを含む一連の企業群、家族を含む働くヒト、地域政府を含む地域社会を構成要素として成立する。(B)システムは、資源の調達・配分という現状の側面と、資源自体の増減という変化の側面を合わせ持つ。(C)システムは、現状に即して、ヒトの職業に必要な資源(訓練など)と福祉に必要な資源(老後の面倒など)が各構成要素からどのように調達されるかによって類型化される。(D)システムの持続可能性は次のように判断される。第一、現状において職業資源と福祉資源両者の調達を一つの構成要素に依存する類型(企業依存型、ヒト依存型、地域依存型)は持続可能性が相対的に低いとみる。第二、変化において三つの構成要素すべてが職業資源および福祉資源の増大に寄与している場合は持続可能性が非常に大きいとみる。 以上の仮説に依拠し、平成24年度は、本田技研とそのサプライヤー、特に東風本田汽車有限公司(中国湖北省武漢市)とそのサプライヤーを対象として、調査を進めた。調査内容では、メーカーおよび1次サプライヤー自身の行う、採用・賃金・労働時間・教育訓練・昇進・退職など人事労務管理の基本的な事項のほか、なかんずく開発・生産管理・品質管理において、より下層の企業(メーカーであればその1次サプライヤー、1次サプライヤーであれば2次サプライヤー)の労働者に対し、どのような指導あるいは支援を行っているかに留意した。
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