北タイではチェンマイ県サンパトーン郡の町バーン・クラーン町とバーン・ターカーン村を、東北タイではスリン県ムアンリン郡のルワム・ウドム村とチョンプラ町をそれぞれ調査し比較考察した。 北タイでも東北タイでも町ではいずれも健康基金は導入されていなかった。その理由は、町にはリーダーを含めて裕福な商人が多数居住しているため、健康保険を導入することに対して理解が得られないことである。それに対して、農村は導入されていた。東北タイのスリン県は僧侶をリーダーとする仏教理念にもとづいて普及されていた。北タイではチェンマイ市にある公的福祉機関が助言をしサポートしたことが、健康基金設立に大きく与っていた。 タックシン政権以後、多くの住民組織が補助金の受皿としてつくられてきた。そうした住民組織の委員長に、村長や区自治体委員、そして村落保健ボランティア委員会委員長が就任している。前者の二つは村にプロジェクトが導入されるさいに、彼ら/彼女らの判断が大きな影響力をもつことから権力を有しているといえる。それに対して、後者の村落保健ボランティア委員会委員長は権力を有していないが、村人と多くのネットワークを有していた。 また、村落保健ボランティアは有給になるとともに、その仕事が村人の健康維持のみならず人びととの関係形成においても重要になってきている。くわえて、彼ら/彼女らは多くの住民組織の委員にも就任している。彼ら/彼女らの仕事が村人とのネットワークを築くことにもあることを考えると、村落保健ボランティア委員が市民社会を形成するうえで重要な鍵になる可能性がある。今後とも、この点に注視する必要があるだろう。
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