本研究では、日本において派遣労働や業務請負などの人材仲介業が創出した「間接雇用」によって、「労働条件の低い流動的な労働市場」が新たに形成されていることに着目し、その規模や就労実態及び改革に向けた政策課題を国際比較をとおして明らかにすることを目的とする。 1. 日本では東日本大震災以降、流動的労働市場に変化が生じていることに着目し、沖縄・九州・北海道・青森などの相対的に雇用機会の少ない地域から、人材仲介業者を介して福島第一原発の事故収束・除染作業に多数の労働者が動員されている実態を現地調査により明らかにした。労働者派遣法や職業安定法に違反する多重派遣なども多発しており、労働市場の流動化とともに原発労働の現場では労働者供給事業が復活していることが浮かび上がった。 2. 韓国の間接雇用について、自動車部門に続いて本年度は造船部門の実態調査をしたが、日本のような流動的労働市場の形成は見られないことが判明した。造船業の間接雇用の形態は自動車部門と同様に「社内下請」(その大半が偽装請負)であるが、社内下請業者の無期雇用の労働者のほかに「物量チーム」と呼ばれる雇用の調整弁となる労働力のプールが組織されていること、その多くは地元出身の労働者であることを明らかにした。現代自動車の社内下請に関する大法院判決(社内下請も派遣労働に該当するため、2年以上勤務した社内下請労働者は、正規職と見なければならないとし、現代自動車の社内下請を派遣法違反と判示)は2012年5月に確定したが、使用者はこれに抵抗しつづけているため、間接雇用の抜本的改革は進んでいない。 韓国雇用労働部への調査により、人材仲介業(労働者派遣業および有料職業紹介業)の大半を零細業者が占め、大手人材ビジネス業者の形成・参入が見られないことが明らかになった。このことが労働市場の流動化を抑制していることと深く関わっていると考えられる。
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