本年度は、以下2つの仮説を検証した:(1) 飲酒、喫煙に対する制裁が、同様の行為に対する報酬を上回るほど、未成年の日本人大学生はこれら違法行為をしない。(2) 非飲酒、非喫煙に対する報酬が、同様の行為に対する制裁を上回るほど、未成年の日本人大学生はこれら違法行為をしない。なお、ここで言う“制裁”とは、仲間からの嘲笑や非難といった社会的罰(不快刺激)を受ける可能性と、それを受けたことによってもたらされる問題の大きさの積算を意味し、“報酬”とは、仲間からの称賛や尊敬といった社会的報酬(快刺激)を受ける可能性と、それを受けたことによってもたらされる利益の大きさの積算を意味する。 仮説の検証に使用されたデータは、大学1年生を対象に、平成23年5月に実施したオンラインアンケート調査の一部である。分析に際しては、20歳以上の学生と将来飲酒、喫煙をする意思があるか否かを答えなかった学生を除いた554名の日本人学生の回答を使用した。 仮説の検証は、重回帰分析を用いて行った。仮説1については、「違法行為に対する制裁と報酬のバランス」が「飲酒」と「喫煙」に対して有意な負の効果を持つことが示された。この結果は、飲酒、喫煙に対する社会的制裁が報酬を上回るほど、未成年の日本人大学生はこれら違法行為を控える傾向が強いことを意味しており、拡大抑止理論と社会学習理論の中心概念の一つである分化的強化を併せて設定した仮説1と整合する。仮説2については、「遵守行為に対する報酬と制裁のバランス」が「飲酒」に対してのみ有意な負の効果を持つことが示された。「喫煙」に対しては有意な効果が認められなかったというこの結果は、仮説2を反証するものであり、未成年の日本人大学生は、非喫煙という法令遵守行為に対する社会的報酬が制裁を上回っているか否かを考慮することなく、喫煙をする(しない)という意思決定をすることを示唆している。
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