本共同研究は、現代日本の終末期医療における在宅介護忌避の傾向や看取りを支える関係性の喪失といった諸問題をふまえ、死生をめぐる人々の意識や価値観の実際を、実証調査・思想史的考察によった多角的な視座から明らかにすることを目的としている。3年計画の初年度である2010年度については、以下のような研究の進捗があった。 (1)在宅ホスピス利用者の遺族を対象とした調査票調査(担当:諸岡了介・田代志門・相澤出・藤本穣彦) Eメール等での連絡や直接のミーティングを通し、2007年に行った先行調査を検討して、新たな調査票の製作を行った。また、協力医院の許可や倫理委員会の審査といった手続きを経て、調査票の配付を行った。現在、回収作業が進行している。 これら調査の結果は、2011年度以降に予定している集計・分析作業を待たねばならないが、そもそも先行調査の少ない在宅ホスピス利用者の療養環境や文化的背景の実態について、ある程度広い範囲(宮城・福島)における調査として新しい知見が得られることが期待される。 .(2) 思想史的・宗教史的な文献研究(担当:桐原健真・諸岡了介) 2007年の先行調査の結果などを参照しながら、関連の思想史・宗教史の文献の収集を進めた。その上で、明治以降にみられる「死者の現れ」に関する諸記録について宗教史的考察を進めるとともに、その思想史的背景を掘り下げた。 こうした日本の死生観に関わる思想史的・宗教史的な考察から次第に明らかになりつつあるものは、日本人に本質的な死生観といったものではなく、近代以降(も)大きな社会的変動の中にあって揺れ動く死生観の有りようである。2011年度はさらに一層その具体相に迫ることを研究の目標とする。
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