過去2年度にわたって検討してきた大都市圏の動向や都市政策の実情をふまえて,最終年度ではそこで明らかにされた課題をコミュニティのレベルでとらえることのできる問題事例の探索と,これまでの研究成果をまとめた報告書の作成を行った. 事例の探索については,前年度までの検討から,大田区に焦点を絞って,行政の計画担当部局にたいする聞き取り調査を実施した.その結果,当初予想していたような住宅地との調整による工業地区の集約化などの取り組みはまだ実質的な課題とはなっていないことがわかったが,羽田空港の跡地開発をめぐっては,大田区の産業振興という視点から東京都との計画調整が今後重要な課題になることが明らかになった. 他方,報告書の作成にむけて,東京都の最新の政策動向を確認することによって,東京都が最近になってアジアの諸都市との競争を意識しながら,外資系企業の投資や誘致に取り組み始めたことが明らかになった.同時にそのような構想との関連で羽田空港の国際化が取り上げられ,今後跡地開発に関する計画の策定に取り組んでいくことが明言されていた.したがって,羽田空港の跡地開発をめぐる東京都の政策立案とそれにたいする大田区の対応が,今後東京の世界都市戦略と大田区の産業コミュニティとしての課題が交錯する問題領域として,きわめて興味深い事例となることが確認できた. しかしながら,3年間の研究成果を報告書としてまとめるにあたって,日本においてはグローバル市場をリードするような創造的で革新的な科学技術にもとづく商品開発などの必要性や,それを実現することのできる特定地域への重点的な支援,ならびに国家の領域には拘泥しない人材や資金の交流などの都市政策は,いまだその意義が広く認められる状況にはないことが改めて確認された.この意味で羽田空港の跡地開発についても,もう少し長い目でその帰趨を見守る必要があり,今後の課題としたい.
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