本研究課題は,薬物依存からの自助的回復組織であるダルクのエスノグラフィ研究の実施を目的とするものである。前年度から継続して首都圏にあるAダルクとBダルクを2ヶ月に1回程度訪問し,ミーティング参観とインタヴュー調査を行った。インタヴューは,ダルクのスタッフと,利用者であるメンバーを対象としたが,特に,メンバーへのパネルインタヴューはこれまでに13人の協力者が得られ,通算で13回にわたって話を聞くことができた人もいた。基本的に,インタヴュー録音はアルバイトに依頼して文字化し,研究チームメンバーで共有している。 メンバーによる研究会は1年間で8回行った。パネルインタヴューのデータを元に論文化の作業を進めた。11月に札幌学院大学で開催された日本社会学会においては,研究代表者南と研究分担者平井のほかに,3人の研究協力者が報告し、フロアとのあいだに活発な意見交換がなされた。 パネルインタヴューを元に,ライフヒストリーをまとめる作業に進めている。薬物依存からの「回復」がゴールなきプロセスであるということ,そして,「回復」の軌跡が個別的であり多様なものであるということが調査を通じて明らかとなった。個別性と多様性のなかになんらかの一般性を探る必要があることは言うまでもないが,ライフヒストリー集の作成がメンバーの回復経験の個別性と多様性を包括的に理解する助けとなることが期待される。 なお,代表者南は,回復プロセスにおける携帯電話の働きを分析した論文を発表した。
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