今年度はHIV/AIDS、血友病などの疾患や、日本および韓国の精神障害に関わる分野の「スティグマ」そして「ソーシャルサポート」「地域生活支援」「セルフヘルプ」に関する文献収集を行った。韓国内の疫学調査の結果では、全ての精神疾患の生涯有病率は31.4%で、国民の10人中3人が一生に一度精神疾患を罹患するという状況である。一方、2009年の精神医療サービスの利用実態は、精神疾患に罹患した全ての患者の8.7%だけが、医師、精神科医、その他精神保健専門医に相談している。韓国は、OECD加盟国中自殺率が最も高く、国を挙げて自殺予防も含めた精神保健に対する動きが進められている。1995年に精神保健福祉法が制定された際、地域社会における精神健康を追求することが掲げられてはいたが、結局病院中心の既得権はそのまま維持された。OECD加盟国中で唯一精神病床数が増加しているのもそれを現していよう。国民が求める精神健康サービスを構築するにはパラダイムの変換が必要との指摘もある。すなわち精神障害に対して依然として医学モデル中心の対応が多くなされ、精神障害の慢性的な特徴を見逃しているため医療化がより進んでしまう。その改善にはHolistic Approachを重視し、病院での治療とともに地域生活で必要なトレーニング、そして住宅環境を整えつつマネージメントし、ソーシャルキャピタルの整備が不可欠であることが明らかになった。また、韓国では日本よりも早く開始されたクラブハウスモデルが導入されている。過渡的雇用の実施割合も日本に比べて高く、この理由としてクラブハウスによる雇用先開拓だけにとどまらず、雇用先の精神障害者に対する理解が進んでいることも重要な要素であることが明らかになった。
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