研究概要 |
本研究は,ネパールの「ダリット(Dalit)」とよばれる,アウトカーストとしてカースト制度の最底辺に置かれた被差別集団の女性たちの社会的地位向上と,社会の階層システムを基礎とした宗教や慣習に基づく社会規範,ならびに民法典の女性蔑視の思想による社会的差別構造を解消するべく社会システムの構築の必要性に着目し,ダリット女性達の地位改善の方法を明らかにすると同時に,個々人の自立と能力開発を目指した地域住民志向の効果的な小規模社会開発について実証的研究を行うものである。 ネパールのダリットの女性が,自らの地位向上を目指すために,マヒラサムハ(女性グループ)を結成しマイクロファイナンス(microfinance:小口金融)の運用をNGOと連携しながら活動を始めている。 平成23年度は,ネパールのバディカースト(売春カースト)のフィールドワークを中心に,現在も売春を職業として行っている二つのコミュニティの実態を,地域の文化的背景や特色を踏まえながら分析し,またNGOとのかかわりについて調査分析を行った。差別構造の解消に向けた取り組みや女性の地位向上と貧困削減,エンパワーメントの課題について考察した。 バディは,ダリットのなかでも最底辺に位置づけられ,厳しい差別の中で生活を営んでおり,貧困ゆえに学校に行けず,大学教育や希望の職業への道が閉ざされることが多い。売春で生まれてきた子供は,ようやく母親の名前で出生届や学校入学許可,市民権を得ることか可能となったが,まだ問題も多く,NGO SAFE(social Awareness for Education)は,こうした子供の教育の権利,女性のグループの地位向上に向けた活動などのサポートを行っている。バディに対する差別の解消に向けて,政治・経済や制度面,社会・文化面,教育の面から取り組み,マイクロファイナンスのグループ活動を活性化させ,次世代の子どもたちが十分な教育を受けることができるように,社会システムの構築の推進が喫緊の課題となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ネパールの西部~東部にわたりフィールドワークを行うことにより,複合差別の実態を都市と村,また山岳・丘陵・平野地帯との地理環境から,詳細に調査し,差別構造を明らかにすることができた。また,ジェンダーや持続開発に配慮した地域住民志向の小規模社会開発の実態を把握し,マイクロファイナンス(小口金融)を中心として,国際協調に基づく現地NGOと国際NGOの連携の組織開発と活動の検証を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
ダリットの女性たちが所得貧困のみならず,人間貧困から脱却し,人権や尊厳を意識した地位向上を目指すために,差別解消に向けた社会システムの構築,就学の徹底,意識構造の改革や所得向上のための具体的施策について提言を行う。 グループ内の協調・協働行動を活発にすることにより,人間関係を豊かにし,組織内の効率性を高めることができる,「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴を一般にソーシャルキャピタル(social capital:社会関係資本)とよんでいるが,このソーシャルキャピタルがマイクロファイナンスの活動にどのような効果をもたらし,個々人の自立と能力開発,差別解消のための社会システムの構築にどのような潤滑油となるか検証する。
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