本研究は,ネパールの「ダリット(Dalit)」とよばれる,アウトカーストとしてカースト制度の最底辺に置かれた被差別集団の女性たちの社会的地位向上と,社会の階層システムを基礎とした宗教や慣習に基づく社会規範,ならびに民法典の女性蔑視の思想による社会的差別構造を解消するべく社会システムの構築の必要性に着目し,ダリット女性達の地位向上の方法を明らかにし,個々人の自立と能力開発を目指した地域住民志向の効果的な小規模社会開発について実証的研究を行った。 ダリットの女性が,自らの地位向上を目指すために,女性グループを結成しマイクロファイナンス(MF:microfinance,小口金融)の活動をNGOと連携しながら行っているが,本研究ではフィールドワークによる調査結果をもとに,MFと女性のエンパワーメント,グループ内の信頼,規範などを基本にした協働行動によって培われる,ソーシャル・キャピタル(SC:social capital,社会関係資本)の社会開発への効果や,差別解消に向けたコミュニティの構築について考察した。 MFの活動は,インドとの国境や都市部に近い所で,融資を利用して家畜の飼育や野菜の栽培により,所得向上をはかっていたが,多くは貧困ゆえの生活不安を解消するために,集金したお金をプールして病気や天災等不慮の災難時や冠婚葬祭,出稼ぎ費用,教育費として運用していた。グループ資金を増加させるためには,利子収入が必要となるが,これはメンバーの返済インセンティブを高め,貸出活動がグループ内の規範を醸成し,自主管理能力を育成(SCの形成)していた。また,定期集会が情報交換の場となり,意思決定ができ,メンバー同士の横のつながりが人間関係を豊かにしていた。「ダリット」の解放運動から見えてくるネパールの社会的な歪,複合差別,社会構造を分析し,人間開発,社会開発を推進することは,社会的意義がある。
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