研究課題/領域番号 |
22530574
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
田嶋 淳子 法政大学, 社会学部, 教授 (20255152)
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キーワード | 中国系移住者 / トランスナショナル / 受け入れ社会 / 非移民国家 / 移住システム / グローバル化 / エスニック・コミュニティ / マイノリティ |
研究概要 |
2年度目にあたる2011年は非移民国家であるイタリアを対象として、フィレンツェ郊外のプラート市における実態調査を実施した。プラートに居住する中国系移住者の中心は温州出身者である。そのため、温州総商会東京事務所の事務局員鄭楽静(京都大学博士候補生)の協力を得て、プラート華人華僑聯宜会会長および理事、同会付属華文学校校長およびイタリア華商総会プラート華商会等プラート地域を代表する中国人ボランタリー・アソシエーションでのインタビュー調査を実施した。その結果は以下のとおりである。調査には厦門大学李明歓教授も同席している。 1)イタリアにおける温州出身者の中でも、プラート地域では青田および文成県出身者が多い。欧州への渡航および滞在は必ずしも合法的なものばかりではない。まずはフランス、オーストリアなどイタリア以外の欧州諸国へ渡り、1990年代以降そこからイタリアでの起業をはかっているケースが多い。 2)プラート地域の中国系移住者は主にアパレル産業に従事し、同市郊外にストックヤードを持ち、中国へ生地とデザインを持ち込み、中国国内で生産した製品を輸入、販売している。もちろん、家族従業員を中心とする同郷者ネットワークにより、労働者を受け入れ、工場生産を行っている大規模な業者も存在し、5万人近い人口を要する一大集積地となっている。 3)ただし、同市の政治状況は極めて微妙であり、保守派が市長となった2011年以降、中国系移住者への厳しい税金の取り締まりが実施されている最中であった。中国系移住者組織の代表は主に企業経営者でもあるため、中国国内への不動産投資を進め、家族(特に第二世代である子どもたち)の居住地域をいくつかに分散するなど、受け入れ社会状況を見極めつつ、新たな展開をはかる時期に立ち至っているとのことだった。そのため、中国国内への温州人ネットワークの拡がり、新たな動きを改めてとらえる必要があり、今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に計画を実施できている。ただし、研究分担者となった別の科研費との兼ね合いもあり、中国国内での調査がこの2年間実施できていない。2012年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、イタリア・プラートおよびミラノ、ローマ等の中国系移住者に関するボランタリー・アソシエーション調査を2012年度も引き続き実施する予定である。プラート市の調査はその手がかりとしては貴重なデータであり、今後イタリアにおける中国系移住者全体の受け入れ状況を追加調査によって明らかにできればと考えている。 また、実績報告でも示したように、母国への再投資と移住第二世代のイタリアにおける文化適応の問題は今後、企業経営者である第一世代の方向性を大きく規定する要因であり、中国国内の事業展開についても、同時に調査を進める予定である。そのことにより、トランスナショナルに展開する移住者生活世界の一端を明らかにできるものと考えている。
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