本研究は、グローバル化の圧力を受ける過疎/農村地域住民の生活の維持に関する国際比較研究の一部としてフィンランドを取り上げ、「フィンランドでは、過疎/農村地域住民の生活は、地方自治体と住民による『村運動』の緊張関係において実現されている」という仮説を掲げ、両者が行う生活支援の異同と、その関係について明らかにすることを目的とした。 初年度の研究により、EU加盟後のフィンランド農村では、住民の生活の維持向上には、村運動のみならず、EUの農村開発プロジェクトが重要な役割を果たしていることが明らかになった。そこで次年度は、過疎/高齢化の進行するフィンランド北部、中部、東部の基礎自治体で、行政、農村開発関係者、住民聞き取りを中心とする探索的調査を実施した。 最終年度はこの中からとくに、行政と住民の関係について独自の取り組みが見られるRovaniemi市Ylakemijoki地区を選び、集中的調査を実施し、(1)この地区で考案、試行されている「在宅生活支援クーポン」のしくみ、(2)ロヴァニエミ市の一委員会と位置付けられ、機能しているウラケミヨキ「地域委員会」のしくみ、(3)「地域委員会」のしくみを全市に広げようとしてるロバニエミ市の試みの諸点を明らかにした。 研究を通してフィンランドでは、過疎/農村地域住民の生活の維持について、村運動の果たす役割は、当初、仮説で掲げた程は強くないことが明らかになった。これに代わり、住民の生活支援に関して、公と民間の分担を明確にし、かつ公的なサービスのアレンジについて、住民に委ねようとするロヴァニエミ市の事例に注目した。この事例では、基礎自治体が住民にサービスのアレンジの権限を委譲し、住民がこれを担うことによって住民の生活保障が行われていた。住民は公がになうべきサービス産出をボランティアで肩代わりすることはしない点で対抗を含んだ協力の関係であると言える。
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