研究代表者は、原子力災害からの救済が十全であるためには、どのような社会的救済の仕組みが必要なのかを司法的救済、医学的救済などとのかかわりのなかで実証的に明らかにするという目的のもとで研究をすすめてきた。 本年度は、日本の原子力開発の発祥の地であり、しかも日本で初めて住民が避難した原子力事故(JCO臨界事故)の発生した茨城県東海村で継続している研究をもとに「問われ続ける存在になる原子力立地点住民~立地点住民の自省性と生活保全との関係を捉える試論~」(『環境社会学研究』18号、2012年11月)をまとめた。 本研究を進める過程で、東日本大震災による福島第一原発事故が発生したことによって、福島や東海村はもとより日本各地の立地点住民を視野に収めた立論を展開する必要があると考え、社会的救済という問題関心を、立地点住民の生活保全という視点のもとで考察していくことにした。そこで、原子力施設立地点の住民の生活保全を考察するための枠組み構成の作業を、立地点住民に見られる自省的な態度とその態度にもとづく活動に着目し、それと生活保全との関係を分析する枠組みの構成を試みた。枠組み構成にあたっては、環境社会学の理論のひとつである生活環境主義の経験論から着想を得た。ただし、立地点住民の経験を把握する際、住民間にみられる立場性の差異から出発するのではなく、住民に通底する経験を対象化し、それを基底に分析枠組みを構成した。その枠組みのもとで、立地点住民の生活保全をふまえた社会的救済の可能性を考察した。
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