筋萎縮性側索硬化症(以下「ALS」)は、徐々に身体的機能が低下し、最終的には自分の意思で身体を動かすことが出来なくなる過酷な病いである。さらに、いつ呼吸困難になるのかという恐怖をもち続けているため、患者や家族の精神的苦痛は大きい。このようなALS患者への精神的支援は専門職として重要である。精神的支援の1つとして、本研究では「役割認識」に焦点をあて、専門職としての支援を検討することを目的とした。 平成22年度は、ALSを受け入れ前向きに生きているALS患者10名への聞き取り調査を行った。聞き取り調査は半構造化面接とし、グラウンデッドセオリーを用いて分析した。調査内容は発病してから現在までの病気に対する気持ち、病気が進行しても「まだできる」と感じたことやそのきっかけ等であった。 病いの進行により出来ないことが増える時期は、将来に対する不安が強かった。病いを否認している時には、人の手助けを受け入れることができず、家族役割や社会役割を遂行しようと必死になっていることが多かった。さらに病いが進行し、「自分ではできない」と認めることで、今までの価値観が崩壊し、アイデンティティが崩壊した。しかし、病いを理解し、家族に必要とされていると感じることで、病いを受容し価値転換されることが多かった。また、病状が安定し、病気に対する考え方を切り替えられると、社会役割を持つことが生きがいにつながっていた。罹患期間が長く積極的に活動している患者は、病いを発病する前と後で、自分自身は変わっていないと考えていることが多かった。 23年度はこの調査結果を受け、対象者を広げて調査を行う予定である。
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